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電源は増えるのか?課題である発電所の固定費回収について解説

エネルギー

 GX基本方針でも問題意識となっている電力の安定供給の危機。その課題であるkW確保について、そもそものkWなど電源の価値には何があるのかを踏まえながら、kW確保で問題となっている発電所の固定費回収について、電力自由化で何が起きているのか、電力取引市場の各商品も含め解説する。

kWとは?電源の3つの価値

 電力需給ひっ迫や節電要請など、電力の安定供給が危ぶまれている。この課題としてkWの確保がエネルギー政策として求められている。

 このkWは電源が提供する価値の一つであるが、そもそも電源にはどのような価値があるのか整理する。一般的には、主に以下の価値があるとされている。

  • kWh価値
  • kW価値
  • ΔkW価値
  • (非化石価値)

kWh価値

 電力量のことで、実際に電気を発電できる能力を示す価値のこと。

 一般的な電気代もこの価値を享受しているので、電力量に電気料金単価などを乗じて算定される。詳細は以下のページを参照してほしい。

kW価値

 電源などの供給力の容量・大きさのことで、電気を発電できる能力を示す価値のこと。

 電気は発電量と需要量(使用量)が一致しないと周波数が乱れ安定しないので(需給一致)、最大の需要量を賄えるほどに供給力(kW)を確保しておかないといけない

 一般的には、夏季などに発生する需要ピーク(最大電力)に予備率3%程度を加えた供給力の確保が必要とされている。最近では、夏場は太陽光発電等で自家消費が多くされるため、冬季でも評価したり、再エネ電源の不安定さを踏まえたりして検討されている。

 このように需要規模に対応できる供給力を持つことが、実は電源の一番大きい価値である。

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ΔkW価値

 調整力のことで、需給を一致させるため発電量を調整できる能力を示す価値のこと。

 前述した通り、電気は需給一致させないといけない。天候などによる需要の変動、再生エネルギー電源の稼働状況やその他電源の停止などによる供給の変動、このような需給の不一致に対応するため、電源の稼働状況を変化させて調整する必要がある。

 稼働中の電源の発電量を増減させて調整できる価値や、すぐに稼働できることで発電して調整する価値など、電源に応じて様々な調整できる能力があり、電源の多様性を含め価値として評価されている。

その他価値(非化石価値など)

 上記3点が従来から認識されてきた主要な電源の価値である。他方、近年になって認識され始めた電源の価値がある。

 代表的なものが非化石価値だ。温室効果ガスの排出を考慮し、非化石電源により発電された電力量に付随される形で環境性を示す価値のこと。GXが潮流の中、近年になって評価され始めた電源の価値である。

kWの確保が今後の課題

 現在、エネルギーの安定供給の危機が懸念され、日本政府も政策の遅滞を認めている。詳細は以下のページも参照してほしい。

 このエネルギーの安定供給の危機が顕在化したのは2020年末から頻繁に発生している電力需給ひっ迫である。

 この背景には、地震などの自然災害の発生や想定を上回る気象状況等による需要増大などが挙げられるが、何より電力システム改革が未だ途上であり、kWが不足したことが大きい。

電力システム改革は途上の状況

 東日本震災以降、電力システム改革は、以下を目指して電力自由化を進めてきた。

見出し
  • 安定供給の確保
  • 電気料金の最大限の抑制
  • 需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大

 しかしながら、進められてきた電力自由化を振り返ると、電力事業に参入する事業者を拡大させ需要家が電力会社を選択肢を拡大させたことには成果があったが、特に安定供給の確保、電源関係については、電力システム改革が途上であると認識されている。

電源の事業環境整備が遅滞

 電源関係で電力システム改革が途上であると認識されたのには、以下の現状を踏まえた結果である。

電源関係の現状
  • 稼働率が低下した火力発電の休廃止が加速
  • 原子力発電所の再稼働の遅れ
  • 新設火力プロジェクトが中断
  • 系統整備の不十分さ
  • 調整力の未確保

 再生可能エネルギー電源は増加傾向だが、このように、安定供給が期待できる電源は維持・増加できる環境下に現在はなく、既存の電源も活用するのに不十分な状況である。

 また、再生可能エネルギー電源も十分なバックアップが無く、確保すべきkW電源と評価できない状態である。

 詰まるところ、電源に関しては電力自由化の下で供給力不足を回避するための事業環境整備が遅れている状況であり、電源確保、特に安定供給上で足りていないkWの確保が今後の課題となる。

電力取引市場でkW確保の市場が開設

 電力システム改革では、電力取引市場を通じて電源・kWを確保する取組みが検討されている。

 現在、電力取引市場では電源の固定費は回収が難しく、電源撤退の理由となっている。しかしながら、kWを確保する市場が開設され、2024年から固定費が回収される予定である。

電力取引市場の拡大により固定費回収が困難

 kWの確保、詰まるところ電源を建設し維持するためには、その電源の固定費を回収する必要がある。

 電力自由化が進み、新電力のシェアが3割を超過する地域も存在する。電源を持たない新電力も多く存在し、そんな拡大する新電力は販売する電力量を電力取引市場で調達することが多い

 後述する通り、電力取引市場で取引される電力量は可変費ベースのため、電源を保有する電力会社より安い価格で電力を調達できる。そのことから、特に電源を保有しない新電力の価格競争力が高まり、新電力シェアが拡大。電源を保有する会社はその価格競争の中、販売量を減らすことで固定費の回収が困難な状況に陥っていると考えられる。

現在の電力取引市場ラインナップ

 ここで改めて電力取引市場について、固定費回収の観点も踏まえ確認する。

 現在の電力取引市場は主に以下の市場・商品ラインナップである。(既にキャッシュが動いているもの)

主な市場
  • kWh価値 → 卸電力市場
  • ΔkW価値 → 需給調整市場
  • その他価値 → 非化石価値取引市場

卸電力市場は可変費ベース

 卸電力市場で取引される電力量は、基本的に発電事業者と小売事業者の取引市場で売買されて価格が決まる。しかしながら、市場に多くの電力量を供出する旧一般電気事業者(東京電力EPや関西電力など)は、その市場優位性から独自の取組みとして、限界費用で供出することとされている。

 この限界費用とは、電力を1kWh追加的に発電する際に必要となる費用を指す。そのため、基本的には可変費ベースで卸電力市場の価格が決定すると考えられる。勿論、市場での需要・供給量により価格が決まるため、可変費ベースを超過し一部固定費を回収することも考えられるが、その逆も然りなので、発電会社としては可変費しか回収できないと認識して問題ないだろう。

 なお、電気料金の可変費・固定費は主に以下の通りである。

費用の内訳
  • 可変費:販売電力量の増減と連動する費用(燃料費やバックエンド費など)
  • 固定費:販売電力量の増減とは直接の関係がなく固定的に発生する費用(人件費や公租公課など)、又は概ねkWに比例する費用(建設費や修繕費など)

需給調整市場は一部固定費を回収

 需給調整市場は、発電事業者と送配電事業者の取引市場で売買され価格が決まる。

 発電事業者の入札価格には、ΔkWh価格は限界費用ΔkW単価は電源の起動費やその出力までに必要な電力量費用、出力抑制の場合は販売予定であった電力量の逸失利益をベースに、各々固定費回収のための合理的な額が織り込むことが可能とされている。

 この回収できる固定費は、他市場で得た利益を除き、ΔkWで応札された需給調整の予約時間や稼働時間分である。

需給調整市場
需給調整市場ガイドラインより画像引用。

 つまり、需給調整市場の落札分については、発電事業者は固定費を回収できることになる。

非化石価値などは固定費回収に充当

 非化石価値取引市場など、その他価値に該当する商品を扱う市場は、あくまで発電量などに付随した価値であるため、その売上分は固定費回収に充てられると一般的には考えられる。

固定費に関して新電力はフリーライド状態

 現在の電力自由化の下では、電源を持たない新電力は、主に電力取引市場で販売する電力量を確保する。そのため、前述の通り卸電力市場は可変費ベースのため、固定費部分についてはフリーライド(ただ乗り)状態である。

 電源側から見れば、現状は固定費が回収できないため、発電電力量のみで採算を取るしかない状況である。そのため、前述にもあった通り、可変費が高く発電電力量が少ない電源、特に火力発電が採算性が見込めず休廃止が加速しkWが不足する状況となった。

kWを取引する市場の開設

 この固定費回収ができない問題は既に認識されていたため、市場の開設が急がれていた。

 そして、kWを取扱う容量市場が開設され、2024年にようやく固定費が回収できる状況になる。また、更に長期に亘るkW取引の市場も開設が検討されている。

中短期を目的とした容量市場

 2020年に開設された容量市場は、4年後に必要となるkW確保を確保するため開設された。そのため、2024年が初年度になり、電源の固定費回収がようやく動き出す。

 この取引は電力広域的運営推進機関がkWの目標調達量を設定し、オークション取引で応札する。発電事業者は、固定費に一定の事業者報酬を乗せて入札することができ、固定費を回収することが可能となった。

 これによって、既設電源を維持する判断や新設電源の検討など発電事業者の事業予見性が高まり、kWの維持・増加が期待される。

 なお、この取引に要した費用は、電力広域的運営推進機関を通じて小売事業者に請求される。つまり、これまで固定費がフリーライド状態であった新電力も負担する状況となるため、その分を価格転嫁するなどして電気料金が値上がりする可能性が考えられる。

容量拠出金と容量確保契約金額
電力広域的運営推進機関HPより画像引用。

検討中の長期脱炭素電源オークション

 現在、2023年開設を目指して長期脱炭素電源オークションも検討されている。

 これは容量市場の特別オークションの扱いであり、長期的に非化石電源を増やしていくことを目的に開設される予定である。そのため、電源の対象に制約は大きくなるものの、新規のkW確保が期待される。

 これも同様に小売事業者に要した費用が請求される方向で検討されている。

まとめ

 今回はGX基本方針等でも課題とされているkW確保について、電源の価値から確認してきた。

 電源には以下の価値があり、kW価値は電気を発電できる能力を示す。

主な電源の価値
  • kWh価値:発電できる電力量
  • kW価値:発電できる供給力
  • ΔkW価値:発電を変動させる調整力

 現在は電力需給ひっ迫など安定供給の危機が顕在化しており、政府も電力システム改革が途上の状態で、電力自由化の下で供給力不足を回避するための事業環境整備が遅れており、電源確保、特に安定供給上で足りていないkWの確保が今後の課題とされている。

 kW確保のためには、発電所の固定費回収が必要だが、電力自由化の中で固定費回収は困難な状況であった。それは電力取引市場の中で固定費回収が限定的なことに加え、新電力のシェアが拡大したことが要因としてある。

 そんな中、kWを取引する容量市場が開設され、2024年から固定費が回収されるようになる。また、更に長期に電源を確保するために長期脱炭素電源オークションの検討も進んでおり、電源の増加が期待される。

電力取引市場のラインナップ

電力取引市場のラインナップ
電力広域的運営推進機関HPより画像引用。

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