2023年に初回のオークション実施を目指し検討されている長期脱炭素電源オークション。電源確保に関しては既に容量市場が開設されているが、それとの違いは何か。本制度が何を課題と認識して検討されているのか、その背景や目的について解説する。
長期脱炭素電源オークションの背景
長期脱炭素電源オークションは、電源の設備が高経年化する中で、電力の安定供給を持続するために電源への新規投資を促す必要があるとの問題意識から2018年から検討が開始された。
その後、2020年末以降、電力需給ひっ迫が夏季・冬季の度に懸念され、安定供給の危機から電源確保の必要性が高まってきている。
更に、2020年10月に菅首相(当時)によに2050年カーボンニュートラル宣言が行われ、国際公約となり、脱炭素電源へのフォローが必要となった。
大きな背景を確認した上で、それぞれについてもう少し解説する。
安定供給に向けた電源確保
小売全面自由化により、電源の稼働状況や維持管理費、脱炭素化への貢献など経済合理的な事業者判断の一環として、老朽した火力発電所を中心に電源の休廃止が進み、供給力が低下。その他の要因とも重なり電力需給ひっ迫の危機が度々発生している。
電力需給ひっ迫の背景や、これを踏まえて検討が進んだGX基本方針については、以下のページも参照して欲しい。
そして、今後もこの傾向は短期的には解消されない。このような電源確保が困難といった安定供給に向けた構造的な課題に、対策を講じる必要性が高まっている。
短期課題として、先に述べた通り、安定供給に必要な予備力を下回るなど、電力需給ひっ迫の危機が挙げられる。
これに対しては既存の電源で対応するしかない。既存電源の退出防止のために、エリア需要に責任を持っている送配電事業者等が、電力需要に対し必要な供給力・調整力を確実に確保できるような仕組みづくりに加え、国が電気事業者の休廃止予定の電源を確実に把握し、安定供給に対する仕組みを構築するなどして対応していくことが検討されている。
中期課題としては、小売販売価格に影響している卸電力市場の電力価格が低下する、電源の稼働率が低下するなどにより、電源の維持管理費といった固定費の回収が困難になり、更に電源の撤退が進むことが挙げられる。
これに対しては2024年から容量市場が導入され固定費回収が行われる。詳細は以下のページも参照してほしい。
長期課題としては、電力自由化によって先ほども挙げた電力市場価格の低下や設備稼働率の低下などで長期的な投資回収の見込みが不確実となり、電源の新増設・リプレースの判断ができず、電源全体の維持がままならないことが挙げられる。特に、建設期間が長く投資額が大きい原子力発電などの電源投資は停滞する可能性が高い。
これに対して、新規電源投資に長期的な固定収入を確保し電源投資を促すために検討されているのが、今回の長期脱炭素電源オークションである。
GX・脱炭素社会への貢献
2050年カーボンニュートラルの国際公約を受け、GXの加速化が求められる。
国内の発電に占める化石燃料の比率は、現時点で約60%程度を占めている。国際公約を踏まえて2021年に公表された第6次エネルギー基本計画で2030年度の目標が掲げられたが、それでも化石燃料の比率は40%もある。
2050年にカーボンニュートラルを実現するためには、2030年以降、加速度的に非化石電源を増やしていく必要がある。
そのため、非化石電源への転換・増設を促す制度措置が必要となり、今回の長期脱炭素電源オークションが整理された。
長期脱炭素電源オークションの目的
上記を踏まえ、長期脱炭素電源オークションの導入目的は以下の2点である。
発電事業者の予見性確保と需要家の利益を同時に実現することが目的であり、この目的の実現を通じて、中長期的に脱炭素電源の確保による安定供給への貢献と国際公約の実現もフォーカスされている。
容量市場との違いとは?
容量市場も長期脱炭素電源オークションも電源確保の制度ではあるが、先にも述べた通り、中期・長期課題といった対応すべき課題フォーカスの違いがある。
容量市場はあくまで既存電源の維持がメインの目的であり、建設費などの初期投資までは考慮されていないことから、新規投資という観点で長期脱炭素電源オークションとの違いは整理されている。
なお、容量市場には、「事前に決まっていない政策的な対応等」を行う場合に、特別オークションを開催することとされており、長期脱炭素電源オークションはその一類型と位置付けられている。つまり、容量市場の一部の位置付けである。
長期脱炭素電源オークションのスケジュール
長期脱炭素電源オークションは2023年度に初回のオークションを実施することを目指し検討がされている。
元々は、経済産業省が設置する総合資源エネルギー調査会傘下の「持続可能な電力システム構築小委員会」で電力システムを再構築し中長期的な環境変化に対応可能な方策の1つとして検討されてきた。
2021年8月公表の第二次中間とりまとめで、本制度の詳細検討が同じく総合資源エネルギー調査会傘下の「制度検討作業部会」にタスクアウトされ、2021年12月から詳細検討が開始された。
なお、2022年10月に第8次中間とりまとめが公表されたが、2023年3月時点でもまだ詳細検討が進んでいる。今後、改めてとりまとめがなされオークションの全容が判明するものと考えられる。
長期脱炭素電源オークションとは?制度の概要
現時点(2023年3月時点)における長期脱炭素電源オークションの概要について、少し整理しておく。
オークションの入札対象は、発電・供給時にCO2を排出しない電源への新規投資とされ、該当するあらゆる発電所・蓄電池等の新規案件やリプレース案件への新規投資とされている。
入札価格は、容量市場同様kW単位であり、上限価格は電源種毎に設定される。なお、上限価格には共通の閾値として10万円/kW/年が目安とされている。
入札価格に織り込みが可能とされているコストは、建設費(予備費とし10%を上限に追加可能)、系統接続費(最新の見積もり額に10%を上限に追加可能)、廃棄費用、人件費や修繕費などの運転維持費、事業報酬(税引前WACCで5%を超えない程度に)などと整理されている。
固定費が回収できる制度のため、可変費や稼働インセンティブを除き、他市場(卸取引市場や非化石価値取引市場など)からの収益は0として扱う。(還付される)
この稼働インセンティブとして、発電事業者は他市場収益の約10%程度得ることが可能となる。
そして入札から供給力の提供開始までの期間は電源種毎に決まっており、提供開始が遅延すると制度適用の期間がその分短縮される。この制度適用期間は、全電源20年を基本に、事業者の申請で20年を超過した長期の適用期間も可能。
その他、ペナルティや入札方式、募集量なども検討が進んでいる。
まとめ
今回は長期脱炭素電源オークションの導入背景や目的などについて解説してきた。
導入の背景は主に以下の2点がある。
- 安定供給に向け、中長期的な電源確保
- 国際公約の実現に向け、GX・脱炭素社会への取組み加速
これら背景を踏まえ、制度導入の目的は、発電事業者に電源投資の事業予見性を確保させ、需要家に脱炭素電力の価値を提供することの同時に実現することとされている。
この長期脱炭素電源オークションは容量市場の一部として、2023年に初回オークションを実施するため検討が進んでいる。
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