2021年後半から電気代の上昇が続き、家計も会社も電気代でお財布事情のピンチが続いてる。2023年の電気代について、電気料金の仕組みも解説しつつ、今後の展望を考察していく。そして、電気代をどう抑えれば良いかについてもご紹介する。
電気料金の内訳とは
そもそも電気料金はどのような構成で決まっているのか確認しておこう。
電気料金は一部の料金プランを除き、毎月一定の金額が請求される基本料金と、電力量に応じて決まる電力量料金に分かれている。
電気使用量に変化が無い場合、基本料金・各種電力料金単価のいずれかの項目が値上がりすれば電気料金も値上がりする。
特に、燃料費調整単価は毎月変動するため、注意が必要である。(ニュース等で「電気料金が○月から値上げされます」と報道されるのは主に燃料費調整単価の影響)
電気料金が上昇している原因は?
電気料金の内訳を確認したところで、電気料金が上昇している原因を解説していく。主な要因は以下の3点。
- 電力会社が電気料金を見直し(基本料金・電力料金単価の見直し等)
- 燃料市況の高騰による調達費用の増加(燃料費調整単価の上昇)
- 再エネ電力の買取額の増加(再エネ賦課金単価の上昇)
電力会社が電気料金を見直し
2019年の冬以降の電力需給逼迫やコロナ禍での燃料市況の変動、何より2022年に発生したウクライナ情勢の影響等を受け燃料市況が高騰し、電力調達費用が嵩んだことなどを受け、電力会社が電気料金の見直しを図っている。
2022年から、後述する燃料費調整単価の上限価格を撤廃する電力会社が相次いでいる。また、新しい電気料金メニューの導入や、既存の電気料金メニューの単価見直しも進んでいる。
更に2023年中の電気料金改定を目指し、電力自由化前から電力小売販売している旧一般電気事業者(東京電力EP、関西電力など)の中で、規制料金を含む電気料金の値上げ申請をする電力会社が相次いでいる。
旧一般電気事業者は、自由化の激変緩和のために、現在においても経済産業省への申請・認可や届出が必要な規制料金が存在する。この電気料金(規制料金)の値上げは経済産業省のチェックが入るため見直しのハードルが高く、いまだに東日本大震災前後の電源構成や燃料市況を前提に設定された電気料金をもつ旧一般電気事業者も存在する。
当時と現在の状況変化に耐えきれず、見直しの申請をする訳だが、自由化以降に誕生した新電力も、この旧一般電気事業者の電気料金を目安に電気料金を設定しているため、値上げの影響は大きく広がると想定される。
なお、申請時点の値上げ幅は30〜45%(5円〜10円程度)増加であるが、認可段階で値上げ幅を見直し修正されることが多いので注目しておきたい。
燃料市況の高騰による調達費用の増加
燃料市況の高騰により、電気料金の中の燃料費調整単価が上昇し、電気代が値上がりする。まずは、この燃料費調整制度について確認しておこう。
日本の電源構成は火力発電の比率が大きい。しかしながら、その燃料費の調達は海外からの輸入に頼っており、グローバルな燃料価格や為替等の変動を大きく受けることになるので、燃料調達費用は安定しない。
毎回料金メニューを改定するのも手間が大きく、電力会社がその変動を被ると高い電気料金が設定される可能性もあることから、この変動要因を各電気料金メニューと切り離し、基準燃料価格を設定した上で、毎月の燃料価格との変動差分を電気料金に反映する燃料費調整制度が誕生した。
この基準燃料価格は、各電力会社の火力分担(石油・石炭・LNGの比率とその他電源の比率)で異なる。また、毎月の燃料価格は、3〜5ヶ月前の輸入価格(貿易統計)を基に算定された平均燃料価格を使用し、この両価格の差を基に燃料費調整単価が決定する。
2021年後半から、世界各国でコロナ禍からの経済回復が進み燃料市況は上昇傾向の中、2022年2月に発生したウクライナ情勢で燃料市況は高騰。調達する燃料価格も上昇傾向が続いたため、燃料費調整単価も上昇が続いた。
電力会社によっては、上記図のように上限価格を設けて燃料費調整単価が頭打ちさせる制度もあるが、前述の通り上限価格の撤廃をする電力会社が相次いでいる。
燃料費調整単価の比較(低圧)
旧一般電気事業者 | 2023年1月 | 2022年1月 |
東京電力EP | +12円99銭 (+5円13銭) | ▲0円53銭 |
中部電力 | +12円30銭 (+5円36銭) | ▲1円79銭 |
関西電力 | +10円91銭 (+2円24銭) | +1円20銭 |
2022年は自由料金・規制料金。2023年は自由料金、括弧内は規制料金。
代表的な旧一般電気事業者が1年間でどれだけ増加したかは上図の通り。ウクライナ情勢前の2022年1月と比較して、自由料金だと10円前後も単価上昇している。一般家庭の電気使用量が月間400kWhだとすると、燃料費調整制度だけで月4,000円前後も電気代が値上がりしたことになる。
また、上限価格を撤廃することで、例示した3社でも7〜8円程度値上がりしたことも確認できる。
再エネ電力の買取額の増加
再エネ電力の買取規模が増加することで、電気料金の中の再エネ賦課金の単価も上昇する状況である。
再エネ賦課金の正式名称は、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」。これは2012年の「再エネ特措法」施行により導入され、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー発電を普及・拡大させることを目的に、電力会社が再生可能エネルギーを買い取る費用を電力の消費者全員で負担するもの。
再エネ賦課金単価の比較
2022年度 | 2021年度 | (参考) 2012年度 | |
再エネ賦課金単価 | 3円45銭 | 3円36銭 | 0円22銭 |
再エネ賦課金単価は毎年、経済産業省資源エネルギー庁が決定する。再生可能エネルギーが普及・拡大することで再エネ賦課金単価も上昇してきた。昨年と比べ9銭ほどの上昇だが、電気使用量が多いほど電気代への影響は無視できないだろう。
電気代は今後どうなる?
電気料金の値上げの要因を確認してきた。では今後の電気料金はどのように推移するのだろうか。電気代への影響が大きい燃料市況は予測できるものではないが、予見性が高い範囲で考察するならば、2023年は電気代が高止まり・微減するものの、2024年以降暫くは電気代が上昇するのではないかと想定される。
理由として以下の要因が考えられる。
- 電気代の負担軽減対策として補助金が実施される(下降要因)
- 燃料市況が高止まりや下落で推移している(下降要因)
- 電力会社の電気料金値上げ申請が認可される(上昇要因)
- 電気料金単価に影響する制度措置が控えている(上昇要因)
- 再エネ賦課金単価は継続して上昇傾向である(上昇要因)
負担軽減対策で電気代が抑制
政府が総合経済対策の一つとして、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が実施される。これは、申請のあった小売事業者に国から補助金が交付され、それを原資に電気代が値引きされるもの。
2023年1月使用分から同年9月使用分までが対象(以降の実施は未発表)。低圧で7円/kWh、高圧で3.5円/kWhが補助される。ただし、9月使用分は左記の補助金が半額される。
これらの補助を受けるために個人等で申請する必要はなく、契約中の小売事業者が申請していれば自動的に値引きされた分で請求される。
期限付きとはいえ、電気料金が大幅に値下がりすることが期待できる。
燃料市況が高止まりや下落で推移
2022年の秋頃から、燃料価格が高止まり・下落で推移しており、為替もピーク時からは円高の傾向で推移している。前述した通り、燃料費調整単価は燃料市況に連動しているため、この傾向が続けば、電気代の下降要因となる。
なお、燃料費調整単価は、3〜5ヶ月前の燃料市況を採用するため、多少のタイムラグが生じる。とは言え、2022年の秋頃からの燃料市況の変動を踏まえ、2023年1月をピークに、燃料費調整単価は下降傾向で推移している。
燃料費調整単価の推移(東京電力EP)
2023年1月 | 2023年2月 | 2023年3月 | 2023年4月 | |
燃料費調整単価 | 12円99銭 | 6円04銭 | 4円69銭 | 3円25銭 |
今後、更なる社会情勢等により燃料市況が変動すれば状況が大きく変わるだそうが、2023年2月時点で予見できる範囲では、少なくとも春先までは電気代は下降すると見込まれる。
電力会社の電気料金値上げが実現
先述の通り、旧一般電気事業者が2023年中の見直しを目指し、電気料金の値上げ申請を実施しており、現在経済産業省で認可に向けて審議が進んでいる。
電力自由化の中で、新電力は旧一般電気事業者の電気料金を参考にして、それよりも安い電気料金プランを提示することで競争してきた側面もあり、新電力も追随する可能性もあることから、影響は大きいと考えられる。
なお、申請の値上げ幅は30〜45%増加であり、これは負担軽減策の補助金と同額かそれ以上の値上げ影響である。そのため、2023年9月までは補助金と値上げ分が相殺され電気代への負担は感じないだろうが、補助金が終わった後は大幅に値上がりを感じる可能性がある。
そのため、2月24日に岸田総理大臣は、「日程ありきではなく、厳格で丁寧な審査を行うとともに、さらなる料金の抑制策を検討する」と電力各社の値上げ申請を厳格に実施するよう指示しており、認可される値上げ幅は修正される可能性が高いと想定される。
電気料金に影響する制度措置の存在
電力業界の制度環境と導入予定時期を踏まえると、電気料金が値上げされる可能性がある制度が控えている。特に足元で影響があるのは以下の2点。
- 託送料金の値上げ
- 容量市場、長期脱炭素電源オークションの導入
託送料金の値上げ
2023年4月より、託送料金が値上げされる。託送料金は、送配電網を利用するため小売事業者が一般送配電事業者に支払う料金の事で、電気料金の費用の中で25〜40%程度と大きく占める費用である。
これを踏まえ、託送料金の値上がりを理由に電気料金の改定を発表している電力会社が相次いでいる。2023年2月時点で、公表している旧一般電気事業者は以下の通り。
なお、託送料金は基本的に5年に一度改定されるが、送配電網の高経年化への対応や再生可能エネルギー導入拡大への対応といった安定供給に資する費用の増加が見込まれるので、今後も託送料金は値上げされる可能性が高いと想定される。
容量市場、長期脱炭素電源オークションの導入
中長期の電力安定供給のため、電源確保を目的に、2024年より容量市場が導入される(既にオークション実施済み)。また、長期的に脱炭素電源を確保する目的の長期脱炭素電源オークションも2023年の実施に向けて制度検討が進んでいる。
これらの電源確保に要する費用は、小売電気事業者に請求される。そして、基本的には電気料金に価格転嫁されると考えられる。
現在、多くの電源を持たない新電力は、電源確保に要する固定費用を織り込んでいないことから、値上げする電力会社が増加すると想定される。
一方、電源を持つ電力会社は収入を得ることになるが、これまでの厳しい経営環境やライバルの新電力が値上げする環境から、値下げまで実施する可能性は低いと考えられる。(場合によれば戦略的に新電力と同じように値上げする可能性も考えられる)
少なくとも容量市場が2024年に導入されるため、電気料金の動向に留意していきたい。
再エネ賦課金単価は継続して上昇
上昇傾向の再エネ賦課金単価は、今後も継続すると想定される。これは先述の「再エネ特措法」で認定されて今後稼働する再生可能エネルギーが相当数存在するからである。
一方、上昇の幅は緩やかに小さくなり、2030年以降は単価減少に転じると見込まれる。「再エネ特措法」による買取期間は10〜20年であり、普及・拡大のため高い設定であった買取単価も、買取期限が終わった後は電力会社の値付けや入札競争等で相当下がった単価になるからである。既に、最大48円であった太陽光発電の買取単価は10円前後まで買取価格が下がっている。
暫くは、認定された再生可能エネルギーの電源増と買取期限終了による単価減で再エネ賦課金単価の上昇は緩やかになるが、認定期限の制約から電源増の要因が無くなった後は、再エネ賦課金単価は減少していくと見込まれる。
電気代を下げるためには
これまで解説した通り、電力会社各社の電気料金は上昇している。そんな中、電気代を抑制するためには、電気の使用状況に合った電力会社・契約メニューに切り替えるのが最適である。
電力自由化により、東京電力や関西電力といった旧一般電気事業者以外に、新規参入してきた新電力会社も多く、契約メニューも多様になっている。まずは、電力会社のプランを一括比較して、電気代がどのくらい見直せるか検討してはどうだろうか。
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まとめ
今回は、電気料金の値上げ要因の解説と今後の展望について考察してきた。
電気料金の値上げ要因は以下の3点。
- 電力会社が電気料金を見直し
- 燃料市況の高騰による調達費用の増加
- 再エネ電力の買取額の増加
一方、今後の展望だが、以下の要因から、2023年は電気代が高止まり・微減するものの、2024年以降暫くは電気代が上昇するのではないかと想定される。
- 電気代の負担軽減対策として補助金が実施される
- 燃料市況が高止まりや下落で推移している
- 電力会社の電気料金値上げ申請が認可される
- 電気料金単価に影響する制度措置が控えている
- 再エネ賦課金単価は継続して上昇傾向である
ただし、あくまで現時点で予見性が高いものを基に考察したまでで、燃料市況の変動や政府の新たな方針、社会情勢の変化など、大きな状況変化があればこの限りで無いことは断っておく。
このような状況が見通されるため、まずは電気代の見直しを実施し、少しでも自分に合った電気料金に切り替えておくことをお勧めする。
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