2023年2月10日に「GX実行に向けた基本方針(以下、GX基本方針)」が閣議決定された。GXの実現に向けた実行方針を掲げたGX基本方針だが、なぜこのタイミングで閣議決定されたのか、GXが注目される理由を含め策定された背景について解説していく。
GXが注目される背景
そもそもGX基本方針が掲げるGXとは何か。国が目指している「グリーンエネルギー・脱炭素社会」への政策動向も含め、大局的な潮流を少し遡って確認していく。
そもそもGXとは何か?
GXとはグリーントランスフォーメーション(Green Transformation)の略。
地球温暖化や気候変動などの原因とされる温室効果ガスの排出を削減する取組みは、ここ数年で世界的な潮流として定着してきた。しかしながら、温室効果ガスの排出削減は社会経済へ負担を強いるのが一般的だ。
GXは、この脱炭素社会の実現を経済成長・ビジネスチャンスの機会と捉え、エネルギー源は次世代エネルギーを含めたグリーンなエネルギーへの推進・転換により脱炭素化を進め、エネルギー利用は省エネ推進や環境付加価値を値付けするなどで消費するスタイルの転換を図るなど、産業構造の改革や国際的な競争力強化も併せて経済社会システムを変革していく取組みのこと。
世界的な脱炭素化への潮流
温室効果ガスが問題視され、地球全体の環境を懸念する声が高まり、6種類の温室効果ガスに関して、法的拘束力のある形で排出削減の数値目標を掲げた「京都議定書」が1997年に採択された。
世界各国が集まった地球温暖化防止会議ではあったが、法的拘束力のある数値目標は先進国に限られていた。
そして、先進国に限らず会議参加国全てを対象とした「パリ協定」が2015年に採択された。
190以上の国と地域が参加していることもあり、世界的に脱炭素化の動きが潮流として認識され、取組みが加速化した。
日本の脱炭素化に対する表明
2020年10月に菅総理(当時)の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明した。
そして、11月に開催されたG20リヤド・サミットで菅総理は改めて表明し、国際公約となった。
翌2021年6月には、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が発表された。成長が期待される14の重要分野について実行計画が策定され、今後国が具体的な見通しを示し、あらゆる政策を総動員し、企業の前向きな挑戦を後押しすることとしている。
成長が期待される14の重点分野
これらの流れを踏まえ、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比46%削減を目指すことが示された。
このように、国内では2020年の国際公約以降、GX実現に向けて徐々に具体的な検討が政府から示される状況となっていた。
開催されたGX実行会議の背景とは?
GX基本方針は、岸田首相を議長とするGX実行会議にて議論されて、取りまとめられたものである。この会議は2022年7月に初回会合が開催され、12月の会合まで5回開催された。
このGX実行会議が2022年のこのタイミングで開催された主な要因は以下の通りである。
- GXリーグの設立
- 重点投資分野への設定
- エネルギーの安定供給の危機
GXリーグの設立
2022年2月に、経済産業省が2050年カーボンニュートラルの目標達成を目指し、「GX基本構想」を打ち出し、「GXリーグ」を設立した。
これはGXに積極的に取組む企業群が、官公庁・学校研究機関・金融などGXに関わる関係者と共に、経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造する環境の構築を目指したもので、具体的には以下の3つの取組みをGXリーグが提供するとしている。
この中の自主的な排出量の取引を行う枠組みを、2023年度の本格稼働する予定としており、GX推進の政府としては、このタイミングで法的措置など方針を示す必要性があった。
重点投資分野への設定
2022年6月に閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」において、GXへの投資が重点投資分野の一つとして示された。
内容として、この先10年程度で150兆円超の官民投資を実施する。そのため民間投資を引き出すため「GX経済移行債」の発行など、「成長志向型カーボンプライシング構想」を具体化することとされた。
また、前述のGXリーグの段階的な発展・活用などを含む脱炭素に向けたロードマップを年内に取りまとめるとされており、早々にGX基本方針の検討が必要となった。
エネルギー安定供給の危機
2020年の年末から、想定外の気象影響やコロナ禍からの経済回復によるLNG不足、自然災害の頻発に加え、2022年2月からのウクライナ情勢による市況高騰などにより、特に電力においてエネルギーの安定供給が懸念された。
これにより、足元では継続して電力需給ひっ迫が見通され、2022年冬季には7年ぶりの節電要請が行われた。
電力需給の見通し
上記表は2022年夏頃に冬季の電力需給の予備率の見通しだが、確保すべき予備率である3%を下回ることが想定された。この対策として、足元で全国大での定期検査の時期を調整する等の対応がとられたが、抜本的な対策には至っていない。
また、上記状況のため電力調達価格が上昇し、電気料金が大幅に値上がり。為替の変動と併せ、全般的な物価変動に影響し、国民生活・企業経営に大きなコスト増を与えている。
電気料金の値上がりに関しては、以下の記事をご参照いただきたい。
これら主に電力によるエネルギー安定供給の危機に対し、政府はエネルギー政策の遅滞と認識し、GX推進と併せて早急な対応に迫られていた。GXの実現も安定供給が前提条件であるためだ。
特に足元の2022年冬季の電力需給ひっ迫の回避に向けて、危機突破への方針を示す必要があり、GX実行会議の背景となっている。
なお、政府のエネルギー政策の従前の方針と遅滞認識は以下の通り。
GX基本方針前のエネルギー政策
福島第一原発事故以降のエネルギー政策は、以下の3点を目指し電力自由化を進めてきた。
政府のエネルギー政策の遅滞認識
政府は以下のエネルギー政策の現状を踏まえ、電力システム改革は途上とGX実行会議で再認識し、エネルギー政策の遅滞解消の必要性に迫られた。
まとめ
今回はGX基本方針が策定された背景について解説してきた。
GXが注目される大局的な背景としては主に以下の2点。
- 京都議定書やパリ協定など世界的な脱炭素化への潮流
- 「2050年カーボンニュートラル宣言」など日本の脱炭素化に対する表明
また、2022年に以下のようなファイナンス側とエネルギー供給側の足元の動きが背景にあり、GX実行会議が開催された。
- GXリーグの設立
- 重点投資分野への設定
- エネルギーの安定供給の危機
これらを受け、GX実行会議では以下の2点を論点と設定して議論がなされ、GX基本方針が策定された。
GX基本方針に則り、関連法案が国会に提出されており、審議後に法定化される見通しである。GXの推進で国際公約が実現されるのか、注視していきたい。
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